大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(特わ)256号 判決

本籍

東京都立川市柴崎町三丁目一四番

住居

同都同市柴崎町一丁目二〇番一号

コーポ樫ノ木二〇二号

新聞販売業従業員

鈴木敬司

昭和一九年二月一九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西輝泰出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する)被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都立川市柴崎町三丁目一四番二〇号ほか同市内及び国分寺市内合計五か所において「朝日新聞立川専売所」等の名称で新聞販売業を営む鈴木虎雄の次男で、同人の事業専従者としてその営業及び経理を掌理していたものであるが、右鈴木虎雄の業務に関し、同人の所得税を免れようと企て、雑収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和五一年分の実際総所得金額が三、六六九万一、七四一円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、昭和五二年三月一五日、東京都立川市高松町二丁目二六番一二号所在の所轄立川税務署において、同税務署長に対し、昭和五一年分の総所得金額が三二三万〇、〇〇三円でこれに対する所得税額が二九万四、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五五年押第八九七号の1)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一、六三三万一、八〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書(1)参照)と右申告税額との差額一、六〇三万七、三〇〇円を免れ、

第二  昭和五二年分の実際総所得金額が二、〇四七万九、六〇八円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、昭和五三年三月一五日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、昭和五二年分の総所得金額が三六八万九、七九一円でこれに対する所得税額が四一万五、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額七二五万六、五〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書(2)参照)と右申告税額との差額六八四万一、四〇〇円を免れ、

第三  昭和五三年分の実際総所得金額が二、三一七万六、六四八円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、昭和五四年三月一五日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、昭和五三年分の総所得金額が三五六万四、〇八八円でこれに対する所得税額が三九万五、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額八七四万七、二〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書(3)参照)と右申告税額との差額八三五万二、一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書四通

一、鈴木虎雄の検察官に対する供述調書

一、収税官吏の鈴木虎雄及び清水米吉に対する各質問てん末書

一、収税官吏作成の売上金額合計、売上、即売、出版物売上、補助金収入合計、朝日補助金収入、中日補助金収入、補助金取消損、雑収入合計、残紙売上、折込広告料収入、食事代収入、家賃等雑収入、朝日保証金利子、仕入、経費(水道光熱費、旅費交通費等)、賄費、地代家賃、店員募集費、盗難損失、廃証、雑費及び朝日支払経費に関する各調査書各一通

一、収税官吏作成の減価償却費、譲渡所得及び不動産所得に関する各調査報告書各一通

一、検察事務官作成の水道光熱費(ガス代)及び功労積立金に関する各捜査報告書各一通

一、押収してある所得税確定申告書等三袋(昭和五五年押第八九七号の1ないし3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項、二四四条一項に該当するところ、いずれも懲役及び罰金を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重いと認められる判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金七〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金三万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する)被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、都下立川市などで六店舗を構えて朝日新聞の専売所を営む者の次男である被告人が、その販売業務に関し、三年間で合計約三、一〇〇万円の脱税を行ったというものであるが、被告人は、父親に代り右の業務全般を統括し、経営者に近い立場にあって自らの判断により本件脱税を行ったもので、脱税の動機も格別斟酌すべきものとは思われず、ほ脱率も九七パーセント弱と極めて高い。もとより、重労働とも思われる新聞配達業務等に日夜精励してきた被告人の労苦を認めるにやぶさかではないが、営利を目的としているとはいえ、新聞販売事業が新聞に対する読者の信頼と無関係にありえないことなどにかんがみても、本件の影響性を看過することはできず、その刑責は軽視できない。他方、被告人は、本件の発覚及び裁判により反省の機会を与えられ、今後二度と不正行為を行わない旨供述しており、本件脱税分に関しては、いずれも修正申告がなされ、本税、重加算税等合計約四、六〇〇万円が完納されていること、被告人には、業務上過失傷害罪で罰金刑に処せられたほかには前科はないことなどの有利な事情も認められ、これら全ての事情を総合考慮し主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙(一) 修正損益計算書(総括表)

鈴木敬司

自 昭和51年1月1日

至 昭和51年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

鈴木敬司

自 昭和51年1月1日

至 昭和51年12月31日

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書(総括表)

鈴木敬司

自 昭和52年1月1日

至 昭和52年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

鈴木敬司

自 昭和52年1月1日

至 昭和52年12月31日

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書(総括表)

鈴木敬司

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

鈴木敬司

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

別紙(四) ほ脱税額計算書

鈴木敬司

(1) 自 昭和51年1月1日

至 昭和51年12月31日

〈省略〉

(2) 自 昭和52年1月1日

至 昭和52年12月31日

〈省略〉

(3) 自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

合計

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例